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水無川大学から車で約一時間のところにある三笠|みかさ|大学付属脳科学研究所。沙弥と蒼汰の二人は十一月の寒い中、一人は男物のコートにくるまるようにして、一人は下はスラックス、上はYシャツにベストのみという格好で訪れた。言わずもがな前者が沙弥で後者が教授である。
「教授、なんでこんなところに来たんですか?」
「僕に届いた手紙があっただろ。あれは僕の知り合いからで、ここで働いている奴からのものだったんだ」
「まあ、それくらいは私にだってわかりますよ。そうじゃなくて、どうしてここに来たかって聞いてるんです」
教授は沙弥を一瞥してはあ、と溜め息をつき、自分の持っていた鞄からその手紙を出し、沙弥に手渡した。
「三笠大学学校長……ってなんでこんな偉い人と関わりを持ってるんですか!?」
ふと送り主の欄を見て驚いた。学校長とは、その大学の最高責任者なのだ。まさかそんな人物と知り合いだったとは思わなかったのだから、当然の反応だった。
「いいだろ、そんなの。僕には僕のツテがあるんだ」
「あ、なんだ。友人じゃなかったんですね」
「……喧嘩を売っているってことでいいんだな?」
移動しながら読んだ手紙には、とある患者が三笠大学病院に入院していたが、病状が急変し脳科学研究所へ移されたというようなことが書かれていた。そして、最後の方に市川君にぜひ来て会ってもらいたい患者なのだとも書かれていた。が、問題はそこではない。
「なんでこの人、手紙でさえ敬語を通り越してへりくだっているんですか、学校長なのに!」
「君もたいがい失礼だな。彼とは過去にちょっとあったんだよ。……ちょっと」
「二回も言うなんて……よほどのことがあったんですね」
「君は僕を何だと思っているんだ」
思ったことを心に留めず口に出す、それが沙弥だ。
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