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「どうやら、ここのようだ」
そう言って、横にずらりと並ぶ白い扉のうちの一つの前で立ち止まった。
手紙に紹介されていた患者はこの扉の向こうにいるらしい。
特に偉い人に会うわけでもないのに、変に緊張して、握りしめた手に汗がじわりとにじむ。
教授は特にそういうことはないらしく(あったらそれはそれで驚きだ)、私の緊張も知らずに素早くドアをノックをした。思わず息をのんだが、中から聞こえた声は女性のもので、とりあえず詰めていた息を吐いて扉を開けた教授に続いて室内に入った。
病室の中は意外と広く、中にいる二人が小さく見えた。
どうやら返事をしたのは見舞いに来ている女性だったようで、患者らしき男は左手に点滴の針を刺し、ベッドの中で眠っている。顔色が少し青ざめて見えるほか、特にどこかが悪そうには見えない。
「えっと……どちら様でしょうか」
男の横に簡素なパイプ椅子に座っている女性は、私たちを見てとてもいぶかしんでいるようだ。それはそうだろう、見ず知らずの人間が二人もずかずかと入ってきたのだ。疑問に思わない人もいまい。
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