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送信したメールに、答えはなかった。
男ふたりが並んで酒を酌み交わすには雰囲気がよすぎる薄暗いバーのカウンターでスマホの画面を消した。
少し酔いが回って一頻りの雑談をしたあとの、心地よいほろ酔いに首筋が温かく感じられた頃合い。
「さっきから随分気にしてんなぁ」
「別にそんなことはありませんよ」
大嘘もいいところだ。入稿日の今日、一史が言っていた日付を跨ぐ可能性は決して大袈裟ではない。大袈裟ではないが、何となく落ち着かない。
自分だって仕事柄、日中は事務処理が行えない。その皺寄せが全て就業時間以降に来る。その上、小学校と違い、土日の部活動も負うこの職業は日付や曜日などあってないようなものだ。
「約束でもあったか」
「いや、ありませんよ」
約束などしていない。する必要もない。帰れば多分真っ暗なアパートに迎えられる。お互い、仕事のある身だ。毎日帰宅を待って一緒に食事をして、テレビを見たりとか、そんなことをしている余裕もない。お互いが寄り添わねば、共に過ごす時間もない。
「女か」
そう問われてどう答えたものか少し迷う。
女では、ない。女ではないが、一人の人間として愛し、手中に納めておきたいと、思っている。時として、それは狂暴な衝動を伴うほどに。
「まぁ、そんな色恋はどうでもいいさ。あの受賞者の子、どうやって引っかけた?」
「引っかけただなんて、嫌な言い方しないでください。語弊がありすぎる」
ロックウィスキーのグラスに唇をつけ、小さくあおる。口当たりの冷たさを喉に落とし込むと粘膜が熱を帯び、焼けるような刺激があった。グラスを置いて煙草に火をつける。薄暗い照明に照らされた煙がするすると黒い天井まで上って嵌め込まれた同色の排気口に飲み込まれていった。
「単純に長期休業の課題です。その中から良さそうなものを添削して、指導して、出品するっていう……」
ふーん。自分で聞いておいて興味など全くないというように瀬戸はグラスの中のボールアイスを子どものように指先で回転させた。弄っておいてその指先をかさ付いた唇に押し込む。
「じゃあさあ、」
押し込んだ唇から指を出すと、足元にあった自分の鞄を持ち上げ、書類の入ったクリアファイルを取り出す。その動きがやたらもったいぶって見えた。
「何でこっちの子、選ばなかったの?」
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