劣情の、橙

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 デスクの前でユトリどころかサトリといわれる世代の新人が片足重心のまま、目線も合わせずに棒立ちにしている。スマホをいじらないで話を聞いているだけ、まだましだと言うべきなのだろうか。  「つまりお前はこれでいいと思っているわけだ」  「はい。説明も端的で分かりやすいですから」  世代でくくるのはよくないな。思いながら一史は今朝とは違う種の深い息を吐き出した。  世代の問題ではない。目の前にいる新人、山本の同期には空回りにすぎるほどアグレッシブで熱心すぎるほど熱心な新人も、文芸部にいるらしい。  つまりは個人差というものなのだろう。  自分だって初めから使えた訳じゃない。署名記事の枠を貰えるようになったのだって4年前……晴人が辞職してからの話だ。それすら右往左往しながら、晴人から教わり、盗み、培われ、育まれた文と視点があったからに他ならない。  「それに、懸賞ページなんてそんな熱心に読まないでしょう」  不貞腐れたように宣った言葉にさしもの一史も閉じた目のまま眉をしかめた。  「判った。」     
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