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後ろ姿を、見ていた。糊の利いた真っ白なシャツは皺がなく、晴人の広い肩幅と下がるにつれ絞られる逆三角形に近い台形の体を如実に現していた。袖のボタンまできっちりと留め、いつもなんとなく下ろしている髪を手櫛で流す。黒い髪は晴人の顔を一層精悍に見せる。
「ネクタイ、臙脂でいいと思うか?」
胸元が開いたままのシャツを見ながら晴人が示す。その声を聞きながら、しばし見惚れていた自分に気がついて一史は目を瞬いた。
「あ、え?」
「ネクタイだ。普段締めないからどれを選んだものか、迷う。」
「シャツは、白なんですよね。」
見て判ることを問うてしまって一史は自分で何を言っているのかと額を掻いた。普段ジャージか、あるいはラフでくたびれたスラックスにせいぜいポロシャツ、ないし、カラーシャツ姿の晴人がかちりとスーツを着こなすとそれだけで心音が跳ね上がる。
「正式な場だからな。カラーシャツは流石に着ていけないだろう。」
はらりと晴人の額に落ちた前髪の一房を、一史は目で追う。昨夜……いや、明け方、汗に毛束となり同じように額に張り付いていたのを思い出して、首筋を掻いた。きつく吸い上げられた肌が、熱を持っているように感じられた。
「……ボルドー」
「ん?」
「ボルドーに、くすんだ金糸と銀糸で目立たない模様が入ったのがあったでしょう」
「ああ。」
呟いた言葉に、晴人はこちらに背を向け押入れを開いた。晴人がそこを開くたびに、言い得も知れぬ焦燥が胸を焼く。嘗て、自分の性玩具が隠されていた場所は、今は空となり、晴人の書籍がダンボールの箱に入って大人しく埃の積もるままになっていた。だというのに、いまだ、一史は心臓が高鳴る。もう自分の性癖はばれてしまって、そのときをきっかけに、自分と晴人は体をつなぐような関係になった。
言葉にして言うことは未だに不慣れだが、言ってみればお互いを好きあう関係、『恋人』といわれるような立場になった。
だが、浅ましい自分が露見するようで、なんとなくその場所を開け、覗かれることに抵抗がある。この部屋は、晴人のもので、自分は転がり込んだ居候で、晴人が好きに自分の部屋の押入れを開閉することなどわかりきっているというのに。
その度に頬が熱くなる。熱くなり、直視できなくなる。
「うわ、」
晴人の頓狂な声に肩が跳ねた。緊張に耳の奥がキンと痛くなる。
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