好意の、赤

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 その感触が何か判っていて上目に一史は晴人を見た。相変わらず、甘さのない野生染みた顔でしていることは糖衣のように甘い。それが実際に苦いものを覆う衣であるだけならば得心も行くところなのだが、晴人の場合、外見の無骨さ、というか、無愛想で無頓着な様がどちらかといえば本質を覆い隠すオブラートで、本質が、甘い。外面や外聞は相応に気にしているのだと思うのだが、二人きりになると一史を自然な態で甘やかす。  一史は最近、その甘さを当たり前に感じてしまっている自分に戸惑っている。  依存したくない。いざというときに動揺したり、絶望したりしたくない。  そう思いながら、その甘い蜜におぼれていくのが判る。それは温かく、心地よく、甘く。いつまでも浸っていたいと思ってしまう。  「まあ、あまり根を詰めすぎるなよ」  旋毛から、額に、前髪の生え際に唇が移動してくる。喉仏の膨らみが、話す声に上下する。開襟の首筋に、食らいついた痕が見えた。  「晴人、さんも」  うん、と呟いて首筋に晴人の強い髪が埋まる。裸の背中に回された腕の、シャツの人口繊維がどこか硬く冷たいのに、その奥にある体が、腕が熱くて困る。  「……仕事(ぶかつ)間に合うんですか」  「んー……今日は直行」  首筋に触れる吐息に体がざわめいた。体の芯がじんわりと熱を持つ。  「でも、だめです」  「いつまでもそんな格好でいるお前が悪い」  ささくれているのか、かさついた指先が背骨の継ぎ目、一つ一つを丁寧に撫でる。やや強い感触は体の中でこり、こりと小さく音を立てる。その音が鳴るたびに徐々に下がってくる指を追いかけるように快感が尾骨のほうへと下ってくる。  唇に力を籠める。眉間にじん、と震えるものがある。  「だめです」  「少しだけ」  「シャツが皺になる」  「ベスト、着るし」  「そういう問題じゃ……」  拒絶しながら膝にかけた布団の中で擡げてきているものが、完全に昨夜を期待している。上乗せるように首筋に噛み付いた唇がきゅっと皮膚に吸い付いて、鼻から甘い息が漏れた。それだけで頭がぼんやりと霞みかがる。  ああ、駄目だ。  硬いシャツの胸を押し返す。晴人は吸い上げた皮膚を舐める為に差し出した舌を露出したまま、間の抜けた顔を一史に向けた。  「やっぱり駄目か」  「駄目ですね」
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