好意の、赤

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 ちぇ、とわざと下手くそな子供のような舌打ちをして晴人は体を離した。涼やかになった体がそれでもまだ、芯の方から熱を放っている。心音は倍速のままで、未だこの官能に慣れない。  少し熱い息を吐き出し、離れた体を眺めた。乱れた前髪を再び掻き上げる。三つ揃いのベストに腕を通し、軽く肩を回した晴人は、彼がこの仕事に就く前、まだ、一史と同じ職場で働いていた時を思い出させる。それは年末の懇親会であったり、公的な場での記者会見であったり。  そういえば、そのどの場面を切り取っても、自分は晴人の姿に目を奪われていたように思う。決して、今のように不埒な思いで惹かれたわけではないと思うが。  そのしゃんと伸びた背筋や、誇張でなく自然に張り出された胸の厚さ。内にある自信を体現した姿。  焦がれないはずがない。  同じ男であってすら、そう思う。  カフスボタンを留め直して、少し考えたあとやっぱりそのボタンをはずして袖をまくる。血管の浮き出た前腕が、筋肉の形に盛り上がる。  「ボタン、していかないと」  「運転の邪魔になるから」  それに、と言葉を区切り親指で自身の下唇を撫でる。その指の強さが、その動きに連動する、前腕の形が。  目に痛いくらい焼き付く。  目のやり場に困って、とりあえず布団の中から下着を探し出して履いた。ぎゅっぎゅっとまるでポンプみたいな音で心臓が縮んで、緩んでを繰り返す。うまく顔もあげられない。頬が、陽のせいだけじゃない熱さに目元がじんわりと潤った。  「……好きだろう?」  「は?」  唐突な言葉に口を開いたまま晴人を見やった。相変わらずのにやにや笑いのまま、唇から、顎に手を移動させてさすっている。  「お前、さ。俺の腕、好きだろう?」  「な、にを」  つい、顔をあげてしまったことを後悔した。眼は口ほどにものを言う。目、どころじゃない。目だけじゃない。顔中が、紅く染まった体まで饒舌に言葉を放っている。  何をいっても言い訳にしかならないとわかっていて、赤くなりすぎて痛い耳を覆って顔を伏した。  「一史?」  意地悪な声を宿したままで、晴人は顔を覗き込もうとする。それを避けて顔を左右させると、執拗に追いかけてくる。  「なあ、好きだろ?一史。」  目を閉じて見ないようにしていてもわかる。晴人は笑っている。奥二重の目を三日月に緩ませて笑っている。愛おしげに俺を見てる。
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