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どこへ行くともなく、ふたりは歩き続ける。
七海が忘れていた『何か』を思い出すたびに沈み込んでいく思考と頭の角度を持ち上げるかのように、翼は「ウーン」と唸りながら伸びをした。
「ここ面白いな~。少し坂になってる」
「おもしろい?」
「あっちには何があるんだろうな?」
「あっちには……たぶん、海」
「海かぁ!いいなぁ。オレ、何年も行ってない」
「ほんと?ななみも!」
そう──何年も。
『八歳の七海』が海に行ける回数も機会もそんなに多くないのは当たり前で、だけど。
「おばあちゃんとおじいちゃんのおうちにいくと、うみがちかくて」
「へぇ~」
子供の足では遠くても、おじいちゃんが運転をして、おばあちゃんと一緒に後ろの席に乗って。
駐車場が砂浜から遠かったから、降りてこんなふうに少し坂になっているところを歩いた。
あそこはだんだん草がなくなって砂だらけになったっけ。
ずぶずぶと砂が靴に入ってしまって七海が立ち止まるとおじいちゃんが抱っこしてくれて、靴と靴下をおばあちゃんが脱がしてくれた。
それから簡易的な海の家じゃなくて、夏の海水浴シーズンだけじゃなくウィンドサーフィンなどをする人たちの安全を守るために常駐している監視員の控室兼販売所となっているプレハブ建物でまだ残っていた子供用のビーチサンダルを買ってくれた。
女の子用のかわいいピンクじゃなくて男の子が好きなキャラクターのついた青と黒のかっこいいやつで、七海は少し不満だったけれど、それだけはおねえちゃんは欲しがらなくてホッとしたっけ。
そんなたわいもない話。
少し潮の香りがするしょっぱい風。
好きな食べ物。
音楽。
疲れたら目の前にあるベンチに座り、見渡す限りの緑の海と青い空に浮かぶ雲を眺める。
お腹が空くことも、喉が渇くこともなく、ただただ笑って話して歩き続けた。
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