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俺がどんなに追い払おうと、触ることすらできなかった黒い影を、一瞬とはいえ押さえこんだ男に驚きが隠せない。
偶然なのかも知れない。
驚きで固まってしまった体を半ば無理やり動かし男に声をかけた。
「あ…、あの!!か、か、かかか、影…。」
俺と男以外誰もいない教室に俺の声が響いた。
緊張や色んなものがない交ぜになって言いたいことが言えない。
それでも男はこちらに向きを変え、俺の方を見てくれた。
その表情に、苛立ちや嘲笑のようなものは見てとれなかった。
覚悟を決めるためにも一旦息を吐いて大きく吸った。
「う、後ろの黒い影、見えてるんですか?」
「何の話だ。」
男の釣り目が睨みつけるように俺を射抜く。
「……俺にも見えてるんです。『死にたい。』っていう黒い影が。」
意を決して男に言う。
頭がおかしい奴って思われるだろうか?
「それで?」
最悪の予想とは違い、男は先を促した。
「俺は、見えるだけで何も出来ない。でも、今あなたが影を追い払うのを見て、それで……、うぅっ、ヒック。」
泣くつもり等、毛頭無かった。
だが、自分自身で思っていた以上に追いつめられていたのであろう。話している途中で、こみあげてしまった涙が止まらない。
グズグズと泣いていると、いつの間にか彼は俺に近づいてきており、ハンカチを差し出した。
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