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「残念だけどそうなのよ。心霊写真は好奇心旺盛な人間が思っているほどおそろしく、ロマンチックなものじゃない。霊体や魂なんてものは、お伽噺でしかないの。人間を構成している二つの要素は、肉体と精神、それだけなのよ」
わたしは断定してそう言った。遙嫁ちゃんが幽霊に寄せる期待を裏切ってしまうことになるが、これがこの世界の現実なのだ。
「というわけで二枚目の写真も心霊写真ではなく、ただの写真。人間の思い込みによって生み出された恐怖でしかない。さて、三枚目にいきましょう……ってこれは……」
わたしは初めて目を丸くした。そこにあった写真はもはや心霊写真と呼称することさえためらわれる代物であった。
「どうしたの? あっ、わかった! ついに本物の心霊写真を見つけたんだね! 私もこの写真が一番怖いと思ってたんだ! だってこんなにはっきり写っているんだもの!」
興奮している遙嫁ちゃんには申し訳ないが、わたしは思ったことを素直に告白した。
「その逆よ」
三枚目の写真に写っているのは、紛れもない人だった。そう、人。夜の川、そこに架けられた橋の欄干手前に並ぶ二人のカップルの頭上に、人の顔らしきものが明白に写っていたのだ。
「その逆?」
わたしは遙嫁ちゃんの期待にとどめを刺さなければならないようだ。
「そうよ。これこそ本物の心霊写真……といきたいところだけど、これほど明確な失敗写真もそうないわね。これはね、多重露出と言って二枚の写真がカメラのトラブルによって一枚の写真として現像されてしまったものなの。幽霊に見える背後の靄は、実のところこの写真に写っている本人なのよ」
「え! じゃあこの二人は幽霊になっちゃったってこと!?」
――どうしてそうなる。
驚く遙嫁ちゃんにこんなことを言うのはやはり忍びないが、ここははっきりと真相を明示してあげるべきだろう。真実は時に人を傷つけるが、なにも虚像が人の助けになるとも思えない。
「……違うわ。多重露出っていうのは、ほとんどの場合において光の明暗によって生まれるものなの。一枚目の写真が暗く写り、二枚目の写真が通常どおり明るく写る。暗いところの近くに街灯や自然光などがあるとそれが反射して曖昧な状態で人を写し、それが機械のトラブルによって次の写真と重なる。そうして出来た写真が、この一枚というわけ」
「………………」
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