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「たしかにそうだな!」
遙嫁ちゃんのもっともな意見に、今までわたしに対抗心を燃やしていた呂加ちゃんが同意する。
「って、わ!」
わたしは脱衣所からお風呂場へやって来た少女に驚いた。彼女はバスルームにまで自身のお人形さんを持って来ていたのだ。
「うぐいすちゃん、お風呂にお人形さん持って来ちゃ駄目でしょ」
わたしは非常識なうぐいすちゃんを叱るも、俯いた女の子はもじもじとするばかりだ。
「水生フォルム」
「はい?」
水性フィルム? わたしはうぐいすちゃんの言葉に耳を澄ました。
「わたしは防水加工が施されているので大丈夫なのです」
うぐいすちゃんはまたしても市松人形が喋っているという体で話した。腹話術を試みているのだろうが、思いっきり自分の口が動いているところが可愛らしい。
「そ。それじゃあわたしたちも身体洗っちゃいましょ」
わたしがそう言うと、うぐいすちゃんはわたしの手をさり気なく握ってきた。
「洗って?」
「ええ! もしかして、わたしがあなたの身体を洗うってこと?」
その時、ちょうどわたしたちの会話が聞こえてきたのか、泡の付いた髪をわしゃわしゃと洗う遙嫁ちゃんがうぐいすちゃんの特性について教えてくれる。
「あっ! うぐいすちゃんは誰かに身体を洗ってもらわないとダメなんだー! いつもはわたしたちやクラスの娘が洗ってあげているけど、今日はせっかくだし織姫ちゃんに頼むよ!」
「えー」
――めんどくさっ! わたしはこの子のお母さんじゃないのよっ! でもまあ……。
「仕方ないわね。こっちに来なさい」
「うん」
とてとて……とこちらに付いて来るうぐいすちゃん。小さな女の子が人のお世話を必要としているのならば、いっちょお姉ちゃんが一肌脱ぎましょう! ……ってもう服は脱いでいるんだけれども。
わたしは数多く並ぶ洗い場、その鏡の前に座り、見つめた。そこに映るわたしはわたしと呼ぶにふさわしく、何というか懐かしい感じがした。不思議な心持ちであることはわかっている。だがしかし、わたしの内に眠る何者かが、こうした日常の中に潜んだわたしの知らないわたしを目覚めさせていくような気がするのだ。この感覚に対して、わたしはどんな名を名付ければよいのだろうか。
「うぐいすちゃん、目痛くない?」
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