第1章

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 バスチェアーを縦に二つ並べ、後方からうぐいすちゃんの髪を洗ってあげるわたし。うぐいすちゃんはお人形さんを持ったまま首を横に振り、否定の合図をした。意味としてはどちらにも取れるが、おそらく泡が目に入ってはいなさそうなので大丈夫ということなのだろう。 「うぐいすちゃんは何組の子なの?」  そう問うと、うぐいすちゃんは鏡の前でピースサインをして見せた。 「1年2組かあ。学生寮は何階に住んでるの?」  うぐいすちゃんは片手だけでは足りないと思ったのか、しばしあたふたして、一度太ももの間にお人形さんを挟むと両手それぞれで三本の指を立てた。 「六階?」  そう尋ねると、うぐいすちゃんはこくこくと頷いた。こうしていると妹の世話をしているみたいだ。どこか温かく、ほっとするひとときだ。一人きりでは味わえない感慨に浸り、わたしはゆっくりと彼女の髪にシャワーの水を掛けた。  妹の身体を洗い終わると、後ろからやかましい声が聞こえた。やたらと感嘆符を用いて喋る呂加ちゃんだ。わたしの平凡なスタイルと違い、呂加ちゃんのそれも妹うぐいすちゃんのように幼稚なものに見受けられた。わたしたち……、同い年なんだよね? 「お前まだ身体洗ってないのかよー! 早くしろよなー、先上がっちまうぞー?」  わたしは遅れた理由(わけ)を説明した。 「うるさいわね! うぐいすちゃんの身体を洗ってたんだから仕方ないでしょ!」  そう言うと呂加ちゃんは、 「そっかー。ならしょうがねえな! あたしはお湯に浸かって待ってるからー! 終わったら声掛けろよー!」 「わかったわ」  呂加ちゃんは遙嫁ちゃんや恵美さんとともに、そのまま温泉のほうへ行ってしまった。身長のことに言及されて怒っていた彼女はいったいどこへやら。わたしに対する反目心すら忘れたような彼女の態度に、わたしはすっかり毒気を抜かれてしまった。 「まっ、根は悪い子じゃないのかもね……」  わたしはそう言い終わり、うぐいすちゃんの待つ隣で自分の身を綺麗にするのであった。  かれこれ十五分後、わたしは悠々とした面持ちで、湯船の中へ入っていった。そこには茹でだこ寸前となった呂加ちゃんがいて、わたしはうぐいすちゃんとの親交を深めたあと、彼女に近づいた。 「おまたせ」  そう言うと呂加ちゃんは真っ赤にした顔で、 「おっせーぞ! 早くサウナ行こう! あたしはもう限界だ!」
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