第1章

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「なー、もういい加減良いだろー? そろそろサウナ行こうぜー?」  お得意のエクスクラメーションサインも消えてきた様子なので、わたしは仕方なく彼女に合わせることにした。 「やれやれ……、それじゃあ勝負といきましょうか」 「お、おうよ」  お互いに水分補給をしっかりとおこない、審判はうぐいすちゃんが務めることになった。勝負は単純なもので、先にサウナルームから出たほうの負けだ。わたしたち三人がサウナ室に入ると、温度計は75℃を指していた。 「それじゃあゆっくりくつろぎましょう」 「うん」  すっかり覇気の失せた呂加ちゃん。傍目にも息が上がっているのがわかる。彼女に倒れられても困るので、わたしは子どもっぽい勝負を切り上げ、さっさとサウナ室から退出することにした。 「あーもう限界だわー。わたし先に出るわね」  三分もしないうちにそう言い、サウナルームの出口へ向かって行くわたし。うぐいすちゃんが後ろから付いてくる。 「おい、もう出るのか? 勝負はまだ始まったばかりじゃねえか」  ぐでーんとした呂加ちゃんはじっと座り、腰を上げようとしない。 「それでも良いのよ。明日も学校があるし、今日は早く寝たいの。それじゃあうぐいすちゃんとわたしは、先に脱衣所へ行ってるわ」  わたしはそう言い残し、サウナルームから浴室へ向かう一歩手前で足を止めた。 「そんなのずるいぞ! あたしを置いて行くなー!」  呂加ちゃんが走りながらこちらへ向かって来る。わたしは勝機を見逃さなかった。 「お先にどうぞ。レディーファーストよ」 「あっはい。これはご丁寧にどうも」  呂加ちゃんは先へ促してあげただけで、いとも容易くサウナ室から出てしまった。 「あ」 「ふふふ」  だましたなー! という呂加ちゃんの声が響く。わたしの足はまだしっかりとサウナ室の内側にある。 「うぃなー」  お人形さんを抱えたうぐいすちゃんが審判としての務めを果たす。こうして、あっという間に勝者が決まってしまった。 「残念だったわね。わたしの勝ちよ、おチビちゃん」 「うぐぐぅー」  歯を食いしばっている呂加ちゃんを眺めて、わたしはペットを獲得した。ちょうどその時、後ろから声が掛かる。 「何をしているの。少し退()いてもらえる?」  わたしはサウナルーム入り口に突っ立っていたことを素直に謝り、彼女に道を譲った。 「あ、すいません」 「良いのよ」
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