第1章

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「あっほら、帰りのホームルームの時間よ。自分のクラスに戻らなくて良いの?」 「あーもう! こんな時に!」  泉蒲さんは名残惜しそうに自分の教室へと帰って行った。あー今日も、ようやく退屈な一日が終わるのだ。  放課後を迎えると、待ってましたとばかりに泉蒲さんがわたしを追い掛けてくる。わたしは聖羅女学院の校舎を抜け、外気を通さない長い廊下をも過ぎて、学生寮のほうへと歩いて行った。その間にも泉蒲さんは付いて来て、わたしはとことん辟易した。  高校の学生寮は八階建てとなっている。縦に八つ、横に十二の部屋があり、転校生のわたしには二階の一部屋が与えられていた。寮生活とあって何かと規則は厳しいが、几帳面なわたしには性に合っている気もした。食事もお風呂も就寝時間も決まっているのでスケジュール通りに動くことができるし、生活に無駄がない。  一番の利点は自分一人だけの個室があることだ。部屋にはベッドやトイレ、洗面台など浴槽を除いた設備が整っているし、とても綺麗で新しい。もはや文句の付けようがないほどの完璧さだ。いまだ友達は一人もできていないが、ひとり心を落ち着けられる部屋があるというだけで転校して来て良かったと思える。――それがどうだ。  わたしの不朽の楽園は、今や一人の女子生徒に崩落せしめられようとしている。水星と獅子が描かれた部屋の扉が抉じ開けられ、わたしが心を落ち着けるべく設けられた時間が刻一刻と消え失せていく。 「お願いー、話だけでもー!」  泉蒲遙嫁さんはわたしの部屋にまで来ると後ろ手に閉めようとした扉を鷲掴みにし、部活動員の勧誘に勤しむのだ。これを迷惑と言わずして何であろう。まさしく迷い惑った行為だ。この人は、どれだけ新入部員が欲しいのだろう。 「話はもう聞きましたから、だから今日はもうお引き取りください!」  わたしが言うと、彼女は、 「お願い! もう時間が無いの! ……ねえ、いいでしょ!? あなたまだどの部活にも入っていないんだからぐにににに……っ」  扉を抉じ開けようとする手は相変わらず、わたしは諦めが悪い彼女に強気に出た。 「これ以上付き纏うのなら先生を呼びますよ! 同じ一年生とはいえ、放課後の時間まで奪われるようなら黙ってはいられません! 早く出てってください!」
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