第1章

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「ええ。この心霊写真に写っているのは、ただの岩よ。光の反射で人の顔のように写し出された岩を、これを見た人間の脳がそのように認識しているに過ぎないわ」  そう言うと遙嫁ちゃんは「おおー!」と感心の声を上げる。 「いわ! ただの岩ときたか!」  ほうほう、と自分の中で確認しているようだが、結果は変わらない。――それは岩だ。人の顔じゃあない。 「それじゃあこっちの心霊写真は?」  わたしは二枚目の写真を彼女から受け取り、鑑定した。 「これも簡単な原理よ。この写真はスローシンクロ撮影で撮られたものなの」 「すろーしんくろさつえい?」 「そう。スロー、シンクロ。つまりカメラ機能の一つを用いて撮影できる写真なの」  わたしはあらゆる物体から直線状に光が伸びた写真を見つめて解説する。写真はあたかも神秘的で、ともすれば不思議な一枚としてそこにある。心霊的言語を遣うならばオーラの表出、エクトプラズムの記録、はたまたオーブの証拠となる写真だが、これもまた科学的類推によって判別することが可能だ。 「レンズフレア、ハレーション。用いられる言葉は数あれど、ここではカメラの機能について説明するわ。カメラには背景モードというものがあるのをご存じかしら?」  そう言うと、遙嫁ちゃんは首肯した。 「うん! いっつも友達と撮る時には使わないけれど、そうした機能があることは知ってるよ!」  元気溌剌なことは良いことだ。けれど彼女にはもっと、論理的思考をもって物事を考えてもらわなくてはならない。そうでなければ、今後も彼女は心霊写真などという科学技術の発達に伴う現象に惑わされかねない。心霊写真とは、携帯カメラの普及によって蔓延した科学的神秘の一つとして捉えるべきだろう。少なくともわたしはそう解釈している。 「このように光が直線または扇状に広がる写真を撮るのは、そう難しいことじゃないわ。背景モードにしたカメラは夜の暗い場所でも出来るだけ多くの光を取り込むため、フラッシュが焚かれた後もしばらくシャッターが開いたままになるの。その際、長い間シャッターが開いた状態でカメラや被写体が動くと、ブレた写真になってしまいやすくなるというわけ」 「ふーん。じゃあこれも心霊写真とは呼べないんだね」  遙嫁ちゃんは夢を失くした少女のように、つまらないと言いたげな表情をしながら、二枚目の写真を眺めていた。
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