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彼女は非常にうつくしかったのである。 顔立ちがうつくしいだとか、表情が豊かだとか、そう言う言葉で表せないタイプのうつくしさ。いうなれば、彼女の肌や髪や骨格を構成する要素の一つ一つが他の誰とも異なってきらきらと輝いているような。 だから燕は、多分彼女が編んでいる花輪は男を選ぶためのそれなのだろうと了解した。出来上がったそれを、今日のお相手に選んだ男に被せてでもやるのだろう。 そういう時代がかったお伽噺みたいなことをしても違和感がないくらいには、彼女はきれいだったのである。 少女はムーンリバーの後は帰らざる河を、その次にはソルジャーブルー、雨に唄えば、あなたに愛されたいの、と曲と曲の継ぎ目さえなく滑らかに歌い続けた。 燕は二本目の煙草に火を点け、純粋に旋律のみを辿るせいか、まるで機械仕掛けのオルゴールみたいに聞こえるその歌声を茫洋と聞き流していた。いつの間にか祖母のふくらはぎの面影は消え、少女のくるくると器用に動く華奢な手首がそれに代わっていた。 ぷつりと、歌声が止む。 全くきりのいい部分などではなく、あなたに愛されたいの、を半分くらいまで歌ったところで突然だったので、燕は引っ張られるように少女を見やった。 少女は完成した花かんむりの具合を軽やかな手つきでぐるりと一周確かめると、重力を感じさせない小鳥みたいな動作で立ち上がった。とうぜん正三角形の頂点たちもそれに従って立ち上がる。 あの花かんむりは果たしてどの頂点に与えられるのだろうか、と、燕は何本目かも忘れた煙草をふかす。少女はかんむりを右の手首に引っかけたまま、燕の隣を通り抜けて公園の出口へと向かった。 そしてその春をすっかり織り込んだようなかんむりは、すれ違いざまにふわりと燕の頭に乗っけられたのである。 「え?」 戸惑い、弾かれたように顔を上げた燕に、少女はにっと白い歯を見せて笑った。 「お大事に!」 それは歌声と変わらず流れる春の小川のような。 ぞっけない紺のブレザーとプリーツスカートがそろいのブレザーとスラックスの群れを引き連れて遠ざかって行くのを虚をつかれたまま眺めていた燕は、そこでようやく自分が病院の面会札を返し忘れて首からぶら下げたままにしていることに気が付いた。
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