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「ミューゼルの筆をオークションに出して、幾らになるかは俺にも解らない。もしも落札額が630万に満たなければあんたはその身を売る事になるだろう」
身を売る事になる。その言葉の迫力にマシロは息を呑んだ。
借金返済期日は残り3日。大金を稼ぐには正真正銘これが最後のチャンスとなる。
「さっきは上手くいったが、競売で鑑定額よりも下回ったなんて話はザラにある。それでも貴重な幻想道具を出品する覚悟はあるか?」
低く、腹に響く真面目なトーンでの問いかけ。
もしも失敗すればクロイの言う通りマシロはどこかに売り飛ばされ、一生奴隷として生きなければならないだろう。
しかし、意外にも彼女の心の中に恐怖は存在しなかった。
何故ならクロイは最初からオークションでの目標売却額を500万ではなく630万に設定していたからである。
鑑定額を越えれば落札額の20パーセントが報酬として手に入るのが鑑定士の仕事だ。
つまりクロイからすれば500万の入札が入った時点で仕事としては成功なのだが、彼は敢えてマシロが借金を全額返済出来る額を目標に設定していた。
外見は小さく、寝ぐせが付いたままのぼさぼさの髪で、不愛想で、自信家で、意地悪な鑑定士。だけどその心の中には依頼人を思いやる優しい心も確かに秘めている。
「ん? どうした。黙ってないで何とか言えよ」
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