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解放された鼻を擦りながら立ち上がったキースの身長はエルフの中でも長身である方のマシロよりも高く、見下ろされたクロイが恨めしそうに睨み上げた。
せっかく探していた馬車の運転士が自分から現れてくれたのだ。この絶好の機会を逃すわけにはいかない。
再びクロイと喧嘩を始める前にマシロはサルナまでの移動の話を切り出す。
「あ、あの。キースさん」
「はいはい! 何ですかマシロさん。おすすめのデートスポットでしたら今すぐにでも僕が愛馬クリケットを駆ってご案内しますよ」
馴れ馴れしくマシロの両手を握るキースが視線を右に向けるとその先には荷馬車に繋がれた美しい黒馬が一頭、飼い主と同じ銀色の鬣を風に揺らしながら堂々と佇んでいた。
この馬ならばどんなに足場の悪い山道や湿地帯での長時間移動にも耐えて目的地までしっかり運んでくれるだろう。
騎乗経験のないマシロにも一目でそう感じさせるほどキースの愛馬クリケットは美しくも力強い雰囲気を纏っていた。
「キースさん。出会ったばかりでこんな頼み事をするなんて恥ずかしい事なのですが、私を南の街サルナへと連れて行って下さいませんか?」
街の外にはびこるモンスターや盗賊の脅威を潜り抜けて移動をする行商人や運び屋家業はいつも命がけであり、それゆえに雇うとなると安くはない額がいる。
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