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「サイン貰ってきてくれ」
そう言って、ドリアンのサウンドトラックCDを取り出してきた。ガチファンじゃん。
「でもいいなぁ。頭も良いし、カッコいいし、あと強いし」
「強い?」
「いやこっちの話」
「そうか。でもなんだ、天才が絶対的にいいとは限らんぞユウキ」
コーヒーを啜って言った。
「天才には、天才の苦労がある。それは俺達には理解できないものかもしれない。でも、その人にとっては大きな問題なんだ」
そう言うと、少し寂しそうに笑った。
「アイツもそうだったよ。天才だった」
「アイツって......父さんのこと?」
伊吹さんが父さんの話をするのは珍しかった。
しかし、父さんの話をするときはいつも楽しそうだった。
「学生の時、アイツの成績はいつも一位で俺は二位。研究の時、何か重要なことに気づくのも大体アイツだったよ」
「嫌いにならなかった?」
「はっはっは!なったさ何回も嫌いになった。空気は読めないし自分勝手だったしな!......でも、やっぱり俺たちは親友だったよ。気付けば笑って許してた」
デスクトップパソコンの横に飾られた、父さんと伊吹さんのツーショットの写真。
〈ベツレヘムの石板〉を見つけた時のものだと言っていた。
黒縁メガネの父さんも伊吹さんも、疲労が顔に出ているが、満面の笑顔だった。
▽
「はい。できたよ」
食堂でCDにサインをもらい、それを受け取る。
「それにしても、サインを欲しがってくれた人があの伊吹信元で、君のお父さんがあの焔音真一だとはねぇ」
「え、二人のこと知ってるの?」
そう問うと、逆に、何故知らないと思ったのかと言う顔をされた。
「暗号解析ソフト〈信〉。伊吹元准教授が作ったこれのおかげで、世界中の軍は自国の暗号の盤石さを知った」
「ばんじゃく......」
「そして焔音真一元教授。全く手のつけられなかった古代文字13種の解読。新たな言語族、バビロニア語族の発見など、挙げだしたらキリのない功績の数々だよ」
そんなに凄かったのか。と、感心している俺にミコトは続ける。
「残された伊吹元准教授が研究所で行なっている研究は、世界のトップを走っているらしいけど、何か知ってるかい?」
「うーん。ずっと石板の研究をしてるよ」
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