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「石板。やはり〈ベツレヘムの石板〉は本当にあったんだね。〈信〉をもってしても未だ解読できない古代言語。どんな法則性なんだか」
ミコトの口から、〈ベツレヘムの石板〉というワードが飛び出したことに驚く。
「なんで〈ベツレヘムの石板〉のこと知ってるの!?」
「......何故だろうね。もしかしたら、〈ベツレヘムの石板〉とキャンサーには、深い関係があるのかも知れない」
「それってどういう......」
これで話は終わりとばかりに、席を立つミコト。
その顔には、歪んだ笑みが貼り付けられていた。
「じゃね。主人公君」
そう言い残して去っていく。
──あの子はいったい、何を知っているのだろうか
彼が消えてから、俺は悩んだ。
「『あの子はいったい、何を知っているのだろうか』とか思ってない?」
「だからみんなエスパーかよ!って、あれ?」
背後から声をかけたのは、先程去って行ったはずのミコトだった。
「さっき、『石板とキャンサーには深い関係があるかも』って言ったでしょ?」
「うん、言った」
「あれ、ウソ」
「ウソぉ!?」
驚愕に思わず叫んだ俺を、ミコトはケタケタと笑った。
「いやぁごめんごめん。どう?なんか『秘密を隠した謎キャラ』っぽかったでしょう?」
「ぽかったって......」
薄く笑っている彼は、どこか掴み所がない。
時々話に嘘が混ざり、結局彼がどういう人間なのかをいまいち理解できずにいた。
「ミコト。俺は君が良く分からないよ」
「そうかい?簡単だよ、『キャラが定まっていない』のさ」
「はい?」
再び向かいの席に座った彼は、おもむろに問うた。
「 どうして漫画の主人公とかは、悲痛な過去とかとんでもない秘密があるんだい?」
「え、どうしてって......そう描かれてるからじゃ」
「そうだよね。そう描かれてるからだ。じゃあさ」
本当に不思議そうに、言った。
「なんで僕にはないのさ」
「......え?」
何を言っているのかと、一瞬理解出来なかった。
日本語なのに、まるで違う言語を聞いているみたいだった。
〈ミコト語〉が、何も分からなかった。
「僕は小さい頃、自分は主人公だと思ってたんだ。みんなの解けない問題が解けて、芸能事務所からスカウトが来て、言語能力があって。この話の主人公だと、ずっと思ってた」
昔を懐かしむように。あの時の自分を羨むかのように虚空を見つめるミコト。
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