琴浦ミコト登場回

7/13

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「石板。やはり〈ベツレヘムの石板〉は本当にあったんだね。〈(シン)〉をもってしても未だ解読できない古代言語。どんな法則性なんだか」 ミコトの口から、〈ベツレヘムの石板〉というワードが飛び出したことに驚く。 「なんで〈ベツレヘムの石板〉のこと知ってるの!?」 「......何故だろうね。もしかしたら、〈ベツレヘムの石板〉とキャンサーには、深い関係があるのかも知れない」 「それってどういう......」 これで話は終わりとばかりに、席を立つミコト。 その顔には、歪んだ笑みが貼り付けられていた。 「じゃね。主人公君」 そう言い残して去っていく。 ──あの子はいったい、何を知っているのだろうか 彼が消えてから、俺は悩んだ。 「『あの子はいったい、何を知っているのだろうか』とか思ってない?」 「だからみんなエスパーかよ!って、あれ?」 背後から声をかけたのは、先程去って行ったはずのミコトだった。 「さっき、『石板とキャンサーには深い関係があるかも』って言ったでしょ?」 「うん、言った」 「あれ、ウソ」 「ウソぉ!?」 驚愕に思わず叫んだ俺を、ミコトはケタケタと笑った。 「いやぁごめんごめん。どう?なんか『秘密を隠した謎キャラ』っぽかったでしょう?」 「ぽかったって......」 薄く笑っている彼は、どこか掴み所がない。 時々話に嘘が混ざり、結局彼がどういう人間なのかをいまいち理解できずにいた。 「ミコト。俺は君が良く分からないよ」 「そうかい?簡単だよ、『キャラが定まっていない』のさ」 「はい?」 再び向かいの席に座った彼は、おもむろに問うた。 「 どうして漫画の主人公とかは、悲痛な過去とかとんでもない秘密があるんだい?」 「え、どうしてって......そう描かれてるからじゃ」 「そうだよね。そう描かれてるからだ。じゃあさ」 本当に不思議そうに、言った。 「なんで僕にはないのさ」 「......え?」 何を言っているのかと、一瞬理解出来なかった。 日本語なのに、まるで違う言語を聞いているみたいだった。 〈ミコト語〉が、何も分からなかった。 「僕は小さい頃、自分は主人公だと思ってたんだ。みんなの解けない問題が解けて、芸能事務所からスカウトが来て、言語能力(ワードキャスト)があって。この話の主人公だと、ずっと思ってた」 昔を懐かしむように。あの時の自分を羨むかのように虚空を見つめるミコト。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加