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「でもね、違った。勉強に、芸能活動に、キャスターとしての活動に、なんのドラマもなかった。分からない問題はないし、役を演じるのも馬鹿みたいに簡単だったし、の癖して世間じゃ天才子役って言われて。知った時は最高にテンションが上がったキャスターも、ねぇ?死んでも死なないバトルなんて、クソゲー過ぎでしょ」
大袈裟に両手を挙げ首を振った彼は、ふて腐れたようにテーブルに顎を乗せた。
「〈友情、努力、勝利!〉とかさ、〈ピンチの時覚醒する秘められた力〉とか何にもないんだもん。つまらないよね、この人生」
天才の悩み。それは全然理解できないものだったが、その核は、なんとなくわかった気がした。
「君は、この世界がドラマとか漫画だと思ってるのかい?」
「思っているさ。ただ、〈僕はただの脇役の物語〉だけどね」
どこまでも面白くなさそうに、彼はそう言うのだった。
▽
『B4です!キャスター達は至急、司令室に集合してください!』
ここ半年、ほぼ毎日となったこの放送。
司令室に集合した五人に、諏訪さんは言う。
「司令。速やかに進行する言語癌を殲滅せよ!五人で協力して戦ってくれ」
「了解!」
▽
「唱装:焔音ユウキ!」
「唱装:刀道スズリ」
「唱装:ステラ・ナタリア・イストリア」
「唱装:引金コトハ!」
「唱装:琴浦ミコト」
全員が唱装。スズリ、ナタリア、コトハが敵陣に突撃。
父さんの言葉を心の中で唱え、熱を上げていた俺の肩を、ミコトが叩いた。
「主人公君。君に言いたいことがある」
「今かよ。何?」
地に刺した覆剣に背を預けて、彼は薄く笑う。
「僕はね......ヒーローになりたかったんだ」
一瞬にして死んだ目をした彼は、また何かを演じたらしい。
「僕はスズリが抱えた悩みに気づいていた。ナタリアが閉じ籠ったことも知っていた。コトハの辛さは、シトとは友達だったからね、かなりわかって上げられていたと思う。それでも僕は、誰も助けて上げられなかった」
彼の悲しそうな顔は、初めて『嘘くさくない』と感じた。
「ありがとう。君のおかげで彼らは救われた」
風が吹く。ミコトの長い髪が揺れた。
「でも主人公君。僕を救おうとはしないでおくれよ」
「......それは、『君が脇役な物語』と何か関係がある?」
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