琴浦ミコト登場回

9/13
前へ
/13ページ
次へ
ミコトは言った。『人生がつまらない』と。 そう思っている彼が、『自分を救わないでほしい』と言うことがどういうことなのか。 俺には深い理由までは分からなかったが、とても恐ろしいように感じた。 「君が『生きること』につまらなさを感じていても、きっと未来には、君の知らない新しいことがある。君がつまらないと感じない、新たな何かがきっとある。だからせめて、俺にそれを見つける手伝いをさせてくれ!俺は──」 「──ストップ。君は勘違いしてるよ」 俺の口を、ミコトの人差し指が塞いだ。 「僕の人生は悲劇的でないにせよ否劇的だ。努力しないと超えられない壁。協力しないと超えられない壁。そんなものはなかった。僕は気付けばトップだった。張り合うものはなかった。こんなつまらないことはないと思った」 「でもね」と、彼は続ける。 「二年前。僕はとある子に負けた。生まれて初めて完敗したんだよ」 「その子って......?」 曇天を見上げ、ミコトは言った。 「僕が最初に認めた〈主人公ちゃん〉。木麻シトだよ」 ▽ 木麻シトが意識不明となる1ヶ月ほど前。 ミコトとシトは、大阪支部地下訓練場にて向かい合っていた。 この時のミコトは、荒んでいた。 自分の人生のつまらなさに心底うんざりしていた。 前日に将棋の名人を飛車角落ちで下して、もう何も、この胸を滾らせるものはないと思っていた。 眼前に立つ一人の少女もまた、先程の銃使い同様、なんの苦労もなく倒してしまえる。そう思っていた。 「楽しませてよ。木麻シト」 「任しとけや。あんたのその怠そうな顔、張り倒したるわ」 歯を見せて笑う彼女に、ため息を一つ。 ビンタされたところで、そのダメージは虚構世界へと送られる。 ミコトの能力〈劇的な嘘〉は、ダメージは送っても痛みは送らない。 初めは新しかった『死』の痛みも、もう慣れてしまった。 ──こいつから『新しい』は得られないな。 握ったゴム剣を構え、突撃。 ──相手は女の子だから、顔面を狙おう。 歪んだ思考で、死んだ目で、ただ真っ直ぐにシトへ向かって走る。 「アンタ、壊れとるなぁ。そんで、私と同じ匂いがするわ」 悲しそうな笑みでそう言ったシトは、手に持ったゴム槍を構え、 「3(スリー)
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加