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ミコトは言った。『人生がつまらない』と。
そう思っている彼が、『自分を救わないでほしい』と言うことがどういうことなのか。
俺には深い理由までは分からなかったが、とても恐ろしいように感じた。
「君が『生きること』につまらなさを感じていても、きっと未来には、君の知らない新しいことがある。君がつまらないと感じない、新たな何かがきっとある。だからせめて、俺にそれを見つける手伝いをさせてくれ!俺は──」
「──ストップ。君は勘違いしてるよ」
俺の口を、ミコトの人差し指が塞いだ。
「僕の人生は悲劇的でないにせよ否劇的だ。努力しないと超えられない壁。協力しないと超えられない壁。そんなものはなかった。僕は気付けばトップだった。張り合うものはなかった。こんなつまらないことはないと思った」
「でもね」と、彼は続ける。
「二年前。僕はとある子に負けた。生まれて初めて完敗したんだよ」
「その子って......?」
曇天を見上げ、ミコトは言った。
「僕が最初に認めた〈主人公ちゃん〉。木麻シトだよ」
▽
木麻シトが意識不明となる1ヶ月ほど前。
ミコトとシトは、大阪支部地下訓練場にて向かい合っていた。
この時のミコトは、荒んでいた。
自分の人生のつまらなさに心底うんざりしていた。
前日に将棋の名人を飛車角落ちで下して、もう何も、この胸を滾らせるものはないと思っていた。
眼前に立つ一人の少女もまた、先程の銃使い同様、なんの苦労もなく倒してしまえる。そう思っていた。
「楽しませてよ。木麻シト」
「任しとけや。あんたのその怠そうな顔、張り倒したるわ」
歯を見せて笑う彼女に、ため息を一つ。
ビンタされたところで、そのダメージは虚構世界へと送られる。
ミコトの能力〈劇的な嘘〉は、ダメージは送っても痛みは送らない。
初めは新しかった『死』の痛みも、もう慣れてしまった。
──こいつから『新しい』は得られないな。
握ったゴム剣を構え、突撃。
──相手は女の子だから、顔面を狙おう。
歪んだ思考で、死んだ目で、ただ真っ直ぐにシトへ向かって走る。
「アンタ、壊れとるなぁ。そんで、私と同じ匂いがするわ」
悲しそうな笑みでそう言ったシトは、手に持ったゴム槍を構え、
「3」
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