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いつもの朝、まだ仕事はしていない
終点の駅に着いた頃には体力のほとんどを使い果たしていた。
ドアが開くとともにホームに人が放流される。
階段には吸い込まれていく人の群れが見える。イワシの群れのように乱れぬ動きで同じ方向に進んでいく。
けれども俺の状況は変わりはしない。これだけ人がホームから溢れそうになるまで出てきても俺の位置まで人が詰まったままなのだ。
人の流れが停滞する。多すぎるのだ。キャパシティを超えた人数がホームを埋める。改札も詰まっているのだろと想像がつく。
隣の男は虚ろな目でホームを見つめている。俺も同じような表情をしているのだろう。
窓の外を見ると背中に足跡を付けた男が歩いていた。足元に潜り込んだのだ。足元を動いて先に出てきたのだろう。乗り続けるのには厳しいがフットワークは軽いのかもしれない。
背中にかかる圧が薄くなる。人が動いている気配がする。密着していた身体が離れていく。
ようやく身体が動かせる。
網棚の上の男たちが飛び降りていく。俺も窓から離れ車内に足を付けた。
潰れた鞄を網棚から引っ張り出して肩にかけた。
強張った身体をほぐすように腕や首を回わす。
今日は久しぶりにハードな込み具合だった。汗でびっしょりのシャツが肌に張り付いて不快だ。人がまばらになった車内には脱げた片方の靴や破けたシャツ、脱げたズボンやら何やらが落ちていた。
いつも光景なのだが酷いものだ。
だがこれは朝の通勤に過ぎない。これから仕事があるのだ。ホームにはまだまだ人がいる。俺は改札に向かい歩き出した。
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