いつもの苦痛

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窓ガラスは耐えられるだろうか。いままでそんなことはなかったが不意にそんな予感にとらわれる。もし窓ガラスが割れたのなら車外に俺たちは放り出されるだろう。網棚の方も余裕がなくなってきたようだ。三人以上の人間が乗っかっている。最初の男は縮こまり文庫本なんて今は読んでいない。網棚の荷物は押しつぶされて無茶苦茶だ。俺は片足を窓の淵にかけた。もはや一等客席の男は何も言わない。これでなんとか体を支えることができそうだ。昔を思い出す。初めてこの電車に乗ったときは本当に驚いた。駅に降りた時は泣いていた。今では慣れたものだが何とか楽になる攻略法を探してみたりもした。結果はいい席を取り、あとは耐え忍ぶだけという方法しかないというものだった。もはや人を乗せることはできず、電車はただ進むのみ。止まるはずの駅を通過していく。車内ではそれに対してのアナウンスが流れる。降りる人向けのアナウンスだろうが、降りることなどできやしない。先ほどの男性のようになるだけだ。気づけば耳障りな音漏れも聞こえなくなっていた。音が人の体に吸収されて消えたのだ。ようやく地下に入ったのか、押し付けられている窓の外が暗い。苦しい、苦しい。ふと思う。ここで便意を催したら最悪だ。自分の場合は当然として、他人の場合では、この状況で漏らされでもしたら臭いにつられて吐いてしまうかもしれない。いつかたどり着くと信じてくだらない考えごとしてやり過ごす。  あとは終点までノンストップのはずだが、長い。長すぎる。
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