0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
いつもの朝
春切線は今日も満員だ。
ひしめく人を押し込められた車両が住宅街から首都へと向かって進んでいく。
俺たちは会社員だ。
例えどんなに天候が荒れていようと例え事故が起ころうとも我々は9時には業務開始できるように出社しなければならない。
『社畜は死んでも会社に行きたがる』
俺たちの中でささやかれている噂だ。登社中に死ぬと死体になっても動き出すというジョークだ。最近ではジョークに思えなくなってきた。会社と家の往復しか人生が無く、休日は体が動かず気が付けば月曜の朝になっている。そんな日常を送っていれば人間の身体をしたロボットのように思えてくる。
いつもの時間にいつものホーム。
すでにひしめく人がホームを埋めている。シャツを仰ぎ、駅まで歩いてきて溜まった熱を冷ます。
ほどなくやってきた電車を見て顔をしかめる。心なしか昨日よりも混んでいる。
ドアが開くも降りる人なし。人の波に押されるように狭い入口から車両の中に入る。
乗車位置によって階層が存在する。席に座れた者は一等客員、吊革に掴まられる者は二等客員、その他を三等客員と勝手に俺は呼んでいる。
混み合う車両の中で座れるのは上等である。座れるだけで一等の価値がある。二等は座れなくとも立ち位置が確保でき、網棚に荷物が置ける地位を持つ。悲惨なのは三等で、揺れる車内で支えもない。四方を人で囲まれ押しつぶされるのだ。特殊なのは入ってすぐの左右の隙間だ。手すりもあり、座席に寄り掛かれるので姿勢も安定できる。けれど、駅に着くたびにドアが開き大量の人の出入りがある。そのたびに小さくならなければ場合によっては巻き込まれ外に出てしまう可能性もある。
俺はもっぱら二等客員だ。一等客席には憧れるが、始発発車を狙って最寄駅からひとつふたつ前の駅に乗るために一時間も早く家を出るなら二等客席でいい。最低でも三等客員にならないように時刻表と運行情報は確かめている。
そんなことを考えながら多くの同胞とともに揺れている。
最初のコメントを投稿しよう!