あの日の放課後

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 小学6年生の時。ついにその時間(じかん)がやってきた。  卒業文集(そつぎょうぶんしゅう)()せる(ため)、皆の将来の夢を作文(さくぶん)にしようと言うのだ。  こういう場合の先生が小学生にやらせる傾向(けいこう)理解(りかい)していた。〟子供(こども)らしい〝〟無邪気(むじゃき)〝な『夢』を書けと言うのだ。  なんと残酷(ざんこく)な事をさせるんだろうというのがユミの感想(かんそう)だ。  叶わない夢を書かせて、将来そんなこともあったねと笑い話にしろと言うのか。  小学6年生にもなれば大体の知識(ちしき)は付いている。自分がどれほどのものだと言うことも。  だから書いてあげた、先生の(のぞ)(とお)りに。『私の夢は作家(さっか)です』って。叶わないはずの夢を。  発表(はっぴょう)の時、それまで私の将来の夢を知らないでいたクラスメイトは(ざわ)めいた。 「でも、ユミちゃん一番本読んでるもの。もしかしたらなるかもしれない」  (だれ)かの一言(ひとこと)(はや)()てる声が(おお)きくなった。  (みんな)(わす)れている、ユミの(いえ)貧乏(びんぼう)高校(こうこう)にすら行けないと言うことと、作家の大多数(だいたすう)大学(だいがく)まで行っているという事実(じじつ)に。  この夢を(かた)ったことはそののち、学校を卒業した後にも言われる様になる。
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