あの日の放課後

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 入院生活(にゅういんせいかつ)退屈(たいくつ)だった。  リビングルームにTVがある以外(いがい)は、小説(しょうせつ)がカラーボックスに少々(しょうしょう)あるだけ。  入院している人のほとんどは会話(かいわ)もままならない人達ばかりで、TVも個人(こじん)自由(じゆう)に見れないからユミは小説を手に取った。  それからは毎日(まいにち)リビングルームにある小説を、次々(つぎつぎ)とジャンルに(こだわ)らずに()んでいった。  そんな日々が過ぎていって、しばらくすると入院患者(にゅういんかんじゃ)()()わり、会話も出来る人が()えた。  その人達と空き時間に少し話したりしていたが、小説を読む手は止めることがなかった。  1か(げつ)ほどが()ぎた時に、医療保護入院から任意(にんい)入院に切り替わり、外界(がいかい)()れる為の期間(きかん)(もう)けられた。この時点(じてん)でユミはいつ退院(たいいん)してもいいことになった。  (そと)空気(くうき)(ひさ)しぶりだった。病棟(びょうれん)中庭(なかにわ)とは違う開放的(かいほうてき)気分(きぶん)になる。  外出(がいしゅつ)が自由になったことで色々(いろいろ)()(もの)をしたり、家の整理(せいり)をしたりした。  そして、とうとうリビングルームの本を全部(ぜんぶ)読んでしまったことを答えると、退院する意志(いし)()げた。  入院中に仲良(なかよ)くなった人に見送(みおく)られながらの退院になった。  最後(さいご)(ほう)は話せる人が(おお)かったから(さび)しくもあったが、本を読めない日常(にちじょう)はユミの(なか)にはありえなかった。
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