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「……五十円じゃ、ないですよね?」
「それじゃあ俺は廃業になっちゃうよ」
にこやかに笑いながら言われ、朔は慌てて愛想笑いをして頭を掻く。
「ですよね……。す、すみません……」
だが、笑い事ではない。五十万円という値段設定はどうなのだろう。相場としては、良心的なのだろうか。悪質ではないのだろうか。本来ならそんなことはもっと事前に調べただろうし、冷静に判断もできただろう。だが、今の朔にそれは難しいことだった。
「大体、一匹一万くらいにしてるんだけど、ここには百匹くらいいるから、合計は百万。でも、朔はご新規様な上に紹介付きだから特別に半額で五十万! ……と言いたいところだけど……」
紫月の言葉の先を待つ朔の手には、冷たい汗がじんわりと滲んでいる。料金がほんの少しでも安くなることを期待をしながら、朔は正座をして座り直し、一度深く呼吸をして息を整えた。
「今回はすごく稀なケースだからね。朔は特別に出世払いにしてあげるから安心して」
「出世払い……?」
魅力的な言葉だった。朔は膝に置いた拳をグッと握る。紫月はしっかり頷いて答えた。
「とりあえず今回はつけといてあげる。言っとくけど、他の人には内緒だよ」
「お金……、いいんですか?」
「そう、とりあえずね。可愛い子限定の、特別大サービス」
「か……、可愛い……子?」
「そう。可愛い子」
繰り返されたその言葉に、思わずムッとして口を尖らせる。朔は童顔で背も低い為か、昔から『可愛い』と言われることがよくあった。男女問わず、恐らくは褒め言葉であるそれを言われても、昔は何とも思わなかったものだが、成人した今では、複雑な気持ちにさせられる。また、ここ数年はちょっとしたコンプレックスでもあった。これまで朔の恋がうまくいかなかった原因は、ほとんどがそのせいだったからだ。誰に想いを打ち明けても、『ちょっと可愛すぎる』とか、『隣を歩きづらい』とか、朔はいつだってそう言われてきた。
幼い外見のせいで、居酒屋に入れば必ずと言っていいほど年齢確認をされるし、なかなか彼女ができないこともあって、同性愛者だと勘違いされることも多い。もっとも、働きに出てからはスーツを着ている時に限り、居酒屋での年齢確認は何とか免れるようになったのだが。
「僕は……、別に可愛くなんか……」
「ん?」
「あっ、いえ……。何でもありません……」
口を尖らせ、不服だと言わんばかりにそう言った朔を見て、紫月はまた、くすくす笑っている。
「ごめん。何か気に障ったの?」
紫月は朔の頭をポンポン、と撫でる。
「いえ……」
それだって子ども扱いをされているような気がして、癪に障った。だが、紫月の手の温もりは不思議と心地よくて、朔は嫌だとも、やめろとも言えなかった。
「そうそう、それから出世払いの代わりと言っちゃなんだけどね、浮気はなしだ。約束できる?」
「浮気……?」
「セカンドオピニオンはなしってこと」
「はい! わ、わかりました……!」
その心配には及ばない。今、朔にそんな余裕はないのだ。他の霊媒師も占い師も、朔は一切知らない。大体、こんな突飛な相談をまた一から他の人間にするなんて、そんな面倒なことは考えもしなかった。
「オッケー。それじゃあ……、始める前に一つだけ確認させて?」
「確認? 何ですか?」
「うん。大したことではないんだけどね。まず、ここにこう、座ってくれる?」
首を傾げながらも、朔は促されるまま、背を向けて紫月の前に正座をした。
「こう……ですか?」
「そう、そのまま後ろ向いててね」
「はい!」
「よし、朔。とりあえず、服を脱いでもらっていいかな?」
「……はい?」
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