白湯

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「胃薬、のむ?」 「うん、飲めそう」 「痛すぎると薬も飲めないのは、矛盾だよな」 「僕も毎回そう思うよ...いっそ人間じゃなくて植物とかだったら、胃腸薬なんて概念すらなくなるよなぁ」 「なにそれ、不毛」 げんなりしながら答える僕に、君は小さな小瓶を僕に放ってよこした。瓶を傾けて、2粒とりだす。別にこれが効くだなんて思ってはいないのだが、飲んだという事実が大事なのだ。自己暗示は人を救う。 「もしさぁ、ここがアフリカのサバンナなら、君はとっくに死んでいるよね。サバンナには薬なんてないもの」 「なに、いきなり」 「人間じゃなかったら楽だったみたいなこと言うけど、人間だからこそ生きてられるんじゃない、君は」 ごくん、と苦い粒を飲み下す。食道を異物が通り抜けていく。ぬるい湯が胃に広がるのを感じて、すこし痛みが引いた気がした。 「....もしサバンナに産まれたなら、もっと開き直ってむしろ百獣の王になってやるさ」 「......君が!? あははは!」 君はテレビから僕の方へぐりんと振り返って、僕の顔を見るなり破顔して声を上げて笑った。思わずむっとする僕の顔を見て、君はさらに笑った。意外と、綺麗な歯をしていた。 「サバンナみたいなもんだろ、今もさ!」 君はまだにやにやとしながら僕の肩をつついた。君が笑っていたバラエティは、すでにエンドロールが流れていた。ああ、オチ見逃しちゃった。残念がる君を見て、すうっと胃痛が治まる。 白湯は、もう甘くはなかった。
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