2人が本棚に入れています
本棚に追加
「後悔してる?」
「何を?」
「寺田さんを好きになったこと」
「いや、全然」
「成績が下がったのに」
「下がったのは自分の責任だよ」
僕のベッドの上にちょこんと腰かける楓(かえで)に向かってにっこりと微笑んだ。
楓も高校三年生だが、学校が違うので見たことのない制服を着ていた。白い半袖シャツだけはそう変わらないが、ネクタイも制服のズボンも、色と模様が全然違った。
僕の高校の制服は明るめのグレーのズボンに、赤紫のネクタイ。彼の着ていたのは、よく見ると黒とダークグリーンのタータンチェック、ネクタイも同じデザインだった。
白いシャツを着た楓は、髪が長めで目にも耳にもかかって邪魔そうだったのに不思議と爽やかに見えた。僕は髪が耳にかからないほど短いのに、どうも清涼感に欠ける。
「そこに誰かいるの?」
部屋に入ってきた母が優しい口調で問いかけてくる。
「うん、いる」
「まだ見えるのね」
「うん、見えるね」
僕の病気はこれだった。何かをきっかけに突然楓が見えるようになってしまった。二重人格ということかと医者に尋ねたが、それとはまた違うらしい。
見えなくなるまで家族以外との接触も禁止。会いたいと思うような友達もほとんどいなかったが、この部屋に楓と二人きりである限り病気は治らない気がした。だって楓がいて困ったことはない。周りから見れば独り言を話す僕は気味が悪いんだろうけど、僕には彼が見えているから問題ないのだ。でもそれが問題なのだという。
最初のコメントを投稿しよう!