私と私

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 寺田さんとは高校三年生で初めて同じクラスになった。特に目立つタイプではないし、特別かわいいわけでも醜いわけでもないどこにでもいる普通の女の子。真っ黒な髪を頭の少し上辺りで一本に結んでいた。  たまたま隣の席になったときだった。授業で聞き逃した箇所があり、ふと思い立って彼女に話しかけた。 「今のってこの公式じゃないとダメって言ってた?こっちで解いてたんだけど」 「いや、ダメってことじゃなくてね……」  寺田さんは思っていた以上に丁寧に、そして的確に説明してくれた。彼女は相手の目を見て自分の意見をしっかり言える人だ。  それ以来彼女を意識するようになった。朝教室にそっと入ってくる姿、授業のノートを丁寧にとる姿、友達と話しながら口に手を添えて静かに笑う姿、全てに目をやり、彼女の吐く息でさえ僕の中に取り込もうとした。  中でも一番好きだったのは、彼女の椅子を引く姿。自席に座る寺田さんの近くを誰かが通る度に彼女は椅子を引く。誰の邪魔もしないように気配を消して椅子を引く。誰もこんな彼女の姿をじっくり見たことないんだろうな、と考えると得した気分になる。 「やっぱり告白したことに後悔はないね」 「ならいいけど」 「楓は寺田さんのこと好き?」 「全然。好みじゃないよ」  ふふっと声を出して笑った。 「そっかあ……。少し眠るよ。起きたら勉強する。受験生だし、ここではそれぐらいしかすることな いしね」 「まあね、おやすみ」 「おやすみ」  僕はベッドの毛布の中に頭の先まですっぽりと潜り込んだ。 「マサト」 「うん?」  毛布をほんの少し下げ、顔の目の部分まで出した。 「僕たちは本当に病気なんだろうか」 「医者がそう言うからね」 「なるほど」 「でももう大丈夫な気がする」 「何が」 「何だか心が洗われたみたいな気分なんだ。何でかな」 「さあ、何でだろ」 「勉強に集中できそうな気がする」 「そう。その前にゆっくり休みな」 「うん、おやすみ」
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