私と私

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私と私

 けたたましいサイレンのような蝉の声とともに僕は入院した。高三の夏休みに入ってすぐの出来事だ。  入院先は総合病院の精神科。いつからか精神疾患を持つようになっていた。入院に対する拒否反応などは全くなく、病気ならば仕方ないと案外落ち着いた心持ちだった。このままだと受験勉強に集中できない。病気ならばさっさと治して勉強がしたい。それだけを胸に生活をしていた。    僕の病状は重症らしい。原因はわからないが、考えられるのは夏休み前になっての急激な成績悪化。もしくは、夏休み前に寺田さんに告白して振られたせいか、あるいは両方が原因かもしれない。    自分で言っても信憑性に欠けるかもしれないが、病気になるほどショックだったかと言われるとそうでもなかった。    成績は常に学年で三百六十人中二十番以内だったのが、百番近くまで一気に下がった。さすがにこれは衝撃だったが、夏休みに勉強すれば挽回できる範囲だと信じて疑わなかったので、落ち込みはしたけれど前向きな気持ちはまだまだ残っていた。    寺田さんにいたってはほとんど話したこともないので、振られること承知の上で気持ちをスッキリさせるために告白した。見事にくだけ散ったが、気持ちの整理がついた。それまでは寺田さんのことが気になってしょうがなかったので、成績が下がったのもそれが原因だったのかもしれない。おかげで今は心置きなく勉強に集中できる。    つまり、病気の原因が成績の悪化だったならば、その原因は寺田さんであるし、寺田さんに告白して振られたことは決して悪いことではなかったので、結局何がいけなかったのか思い当たる節がない、ということになる。
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