太陽系儀と拳闘試合

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「我々の住むこの地上は、地図で表されるような平面ではありません。他の星と同じく球体でできています。なぜだかわかりますか。北の地と南の地では、北極星の高度が異なるのです。普段、皆さんが手にしている携帯用の日時計は住んでいる土地を離れればズレが生じてしまうでしょう。あれも同じ理由によるものです」  日の出から日没までの時間を等分するため、夏と冬では一時間の長さが異なる。軍隊以外では厳格な時間を必要としているわけでもなく、遅刻にもある程度は寛容だった。 「他にも月蝕がありますね。月蝕とは地球の影によって起こるものです。これもまた、地球が球体である証拠といえます」  耳障りな羽音を聞いて、キケロは目の前を飛び交うハエを片手で追い払った。アッティクスはわずかに口を開き、講義に耳を傾けている。  列中廊の右隣の敷地からは、弁護人の滔々とした演説が聞こえてくる。  左は初等教育の私塾らしく、左手で字を書くことを叱る教師の叱責がとんでいる。布のカーテンで仕切られただけなので防音には程遠く、騒がしいことこのうえない。
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