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「そうでした。いま、思い出しましたよ。今日はね、君が見たいと言っていた例のものを持ってきたんです」
ポセイドニオスは床の隅に下ろしていた大きな包みを慎重に持ち上げると、机の上へ載せた。
なにごとが始まったのかと、まだその場に残っていた者たちも集まってくる。荷物は紐でくくられ、何枚もの布で厳重に包まれていた。最後の一枚がめくられると、キケロとアッティクスは思わず息を飲んだ。
中から現れたのは、極彩色の仕上げを施された、ギリシアの衣装であるキトンをまとった少年の姿をした人形だった。実物の半分ほどの大きさで、机の上に立たせると人形のほうがキケロの身長を上回る。
「先日話していた機械人形です。この背中の撥条を回すと、ほら」
少年の人形は腕を折り曲げて胸を押さえ、ゆっくりと腰を曲げて深くお辞儀をする。
しばらくして、曲げた腰を伸ばして顔をあげるが、まだお辞儀を繰り返す。
「ほおっ。これはこれは」
ポセイドニオスのまわりを取り囲んでいた者たちの間からため息が漏れる。
「すごいよ。本当にすごい。素晴らしいものですね、先生」
アッティクスは間近に顔をよせ、瞬きも忘れたのか、息を詰めるようにして凝視している。
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