旧友との再会

7/17
前へ
/97ページ
次へ
「助かったよ。本当にありがとう。なんと礼を言ったらいいか」  一年半ぶりに会う四つ年上の友人は、以前と変わりがないどころか、年相応以上の落ち着きを身につけたようだ。派手な装飾はないが仕立てのいい長衣(トーガ)をまとい、がっしりとした肩には金細工の鷲をあしらった帯止めが光る。やり手の青年実業家といった風格が漂っている。  一方、日頃から頭痛と胃痛に悩まされているキケロは、もともと細かった体からさらに肉が落ちていた。 「なにを言う。水くさいな。君と俺の仲じゃないか。とんだ災難だったな。ところで、君はどこへ行こうとしていたんだ」 「図書館へ行くつもりだった」 「そうか、俺はいま、叔父のところの図書館から出てきたところだ」  アッティクスは細長い包みを手に、片目をつぶってみせる。 「じゃあ、この包みの中身はもしかして」 「本だよ。貴重な地図が入ったと聞いて、叔父に頼みこんで借り受けてきたところだ」  包んでいた白い布の端がめくられると、立派な装丁が施された大ぶりの巻物が入っている。大富豪であるアッティクスの叔父が所有する私設図書館は、法律や経済、哲学に関する莫大な量の書物が揃っていて、以前からキケロもしばしば足を運んでいた。 「なんだ、地図だったのか。それでは、とても抜刀できないな」  巻物を丁寧に包み直して従者の手に戻すと、アッティクスは肩を揺らして笑った。 「第一、うちの屋敷はパラティヌスの豪邸ではないからな」  要は大仰なハッタリだったのだが、暴漢相手には予想以上に効果があったらしい。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加