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「ところで、君はもう昼食を済ませてきたのか」
「いや、あまり食欲がないんだ。でも、君がまだ済んでないなら、なにかご馳走するよ。今日のお礼にね」
「いいのかい。これから図書館へ行くつもりだったんだろう」
「いいんだ。急ぎの用ではないし、図書館はまた今度にする」
「そうか。じゃあ、今日は相伴に預かろうかな。ナルキッソス、この地図を屋敷へ持って帰ってくれ」
包みを受け取った若い従者は、アッティクスを見上げると小さく首を傾げた。
四歳下の弟マルクスよりもいくつか下だろうか。体つきは酷く華奢で、まだあどけない顔をしている。風が吹くたびに、蜂蜜色の長めの髪がふわふわとそよぐ。陶器でできたかのように滑らかな白皙の肌に、形のよい鼻と口が並び、零れ落ちそうなほど大きな瞳が瞬いている。改めて正面から見つめると、はっとするほどの美少年だった。
「あの、ティトゥス様お一人で、大丈夫でしょうか?」
おずおずと尋ねる少年従者を前に、アッティクスは吹き出した。
「一人じゃないだろう。連れがいる」
両手で包みを抱えた従者は、顔を赤らめて深くうつむいた。
「か、かしこまりました」
キケロとアッティクスは連れ立って、ローマの中心部へ向かってアッピア街道を歩き出した。
太陽はすっかり高く昇り、石畳の道には強い日差しが降りそそいでいる。ナルキッソスは二人から十分距離を取ったうえで、うしろを歩いていた。派手な音を立てた馬車が一台また一台と、徒歩の三人を追い越していく。
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