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旧友との再会
夜半から降り続いていた雨は、明け方には止んでいた。
雲の切れ間から明るい日ざしがさしこんでいる。街路脇の樹木に残る水滴は、光を浴びて七色に輝き、暖かな風がローマの都に春の匂いを運んでくるようだった。
マルクス・トゥリウス・キケロは、どこまでもまっすぐで平坦なアッピア街道を歩いていた。側溝には勢いよく水が流れこんでいる。目指す建物まではあとわずかだ。顔をあげようとした瞬間、こめかみを刺すような痛みが走り、キケロは顔をしかめた。
「またか」
このところずっと、偏頭痛に悩まされている。時も場所も選ばず、突然、疼くように痛み出す。こうなると痛みに気を取られて、なにも考えられなくなってしまう。もともと胃腸が弱いので食も細く、体が丈夫なほうではない。
気がつけば、正面から大型の馬車が激しい音を立てて近づいてきていた。慌てて脇へ避けようとしたが、サンダルの先が小石につまずいてバランスを崩し、石畳の端を踏み外した。左足はぬかるんだ泥を踏みしめて、派手な水しぶきをあげた。
「おっと」
とっさにその場にうずくまって、ぬかるみから足をあげる。編み上げの革サンダルは泥まみれになっていた。
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