太陽系儀と拳闘試合

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太陽系儀と拳闘試合

「皆さん、これがなんだかわかりますか」  ポセイドニオスは箱型の機械を両手で掲げ持っている。  隣り合って座っていたキケロとアッティクスは首を伸ばして用途不明の金属の塊を凝視するが、精密なカラクリでできているらしいことしかわからない。ポセイドニオスは太い指先で螺子を摘むと、ゆっくりとまわして見せた。 「よくよく近づいてみなければ見えませんが、これは太陽系儀といって、三十七個の歯車で動いています。回転する度に、太陽と月と水星、金星、火星、木星、土星の動きを、昼と夜が来るのと同様に作り出しています。この機械を使うと月の満ち欠けも計算で予測できるようになるのです」  やや甲高い声が、列柱廊を埋めつくす聴衆の間に響く。初老の学者は改めて背筋を伸ばすと、両手を広げて熱く語りかけた。 「日蝕、月蝕については、六百年前のバビロニアで既に計算によって予測できることが証明されています。非常に複雑な演算になりますがね。ですが、この太陽系儀を使えば、日蝕も月蝕も実に簡単な計算で予測できるのです。実に優れものです。ただし、海の上で使うことはお勧めできません。歯車がすぐに錆びて使えなくなってしまう」  ポセイドニオスが歯を見せて笑うと、聴衆もそれぞれにうなずいてみせた。
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