腐敗した裁判

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腐敗した裁判

「素晴らしかったですよ、キケロ。私が思っていた以上です。君には弁論の才能がある。本当によく勉強していますね」  ポセイドニオスの激賞に、キケロは頬を紅潮させてはにかんだ。額にはうっすらと汗が浮かんでいる。埃っぽい空気の中、声を張り上げて話し続けていたため、唾を飲みこむだけで喉が痛かった。  模擬裁判という形式の、公開弁論大会は大いに盛り上がった。  勉学の途上にある無名の若者たちがそれぞれ得意の弁舌を披露していたが、演壇にキケロが登場すると、彼らの存在は即座にかすんだ。  よく練りあげた論理を畳み掛けるように説き、個々の反論を力ずくでねじ伏せ、あるときは相手を挑発して聴衆から笑いを取り、またあるときは誇張した表現で切々と訴えかける。大会の最後はキケロの独断場となっていた。 「そうそう。ロードスにできた弁論術学校を主宰している、アポロニウス・モロンを知っているでしょう」  ローマでもよく知られている高名な修辞学者だ。キケロは力強くうなずいた。 「君の中で弁論術をさらに磨く気があるなら、私が紹介状を書きましょう。是非とも行ってみるといいですよ」 「もったいないお言葉です、先生。ありがとうございます」  キケロは声をつまらせながら、礼を繰り返した。  その様子をポセイドニオスは目を細めて見ていたが、キケロの傍らに控えていたアッティクスの姿に気がつくと小さく手を叩いた。
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