穏やかなひと時

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風下を行く鷹の背に乗って、フランツに今から向かうお店の事を聞いた。 ラドレス公爵領から140キロ離れた生糸の街ハルハドル領で有名な貴族御用達のドレス専門店ルクセーヌは、フランツの部下ハルディスの姉が営んでいるという。人気店なので予約は2年待ちだとか。 自然豊だけど、商業も栄えた良い街だと言う。 「もしかして、昨夜もお仕事だったのですか?」 (昨晩でその部下の方に話をつけてくださったのでは…) 「本当なら一晩で終わる物だったんだけど…待たせてすまなかったね」 「時間が押したので団員の方が送ってくれると?」 「いや、ミゼルがね…どうしてもサリエルと話したい事があるって言うから。」 「話?私に、ですか?」 話の途中で景色が地表に近付いて降下してゆくのがわかった。 鷹が高原に降り立つと、 先に行って挨拶をしてくるからと、フランツはサリエルを残してお店に入って行く。 高原に吹く風に髪をおさえて、ふと気付けば横で羽を閉じて居たはずの鷹が、人の姿になっていた。 「お久しぶりです。サリエル様」 「お久しぶりです。ミゼル様。 私に、お話があるとか」 「はい、俺だけでは貴方に接触する機会が取れなかった物ですから。話を済ませたら直ぐに帰ります」 (私も、まだあの時のお礼を改めて言えてなかったから隣国へ行く前に、話をしたいと思っていたわ) 孤島で助けられて以来だ。 頬に傷のあるフランツの部下ミゼル・ランフィードは、サリエルに向き直ると覚悟を決めたように、力のこもった瞳で見据える。
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