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なかなか話を切り出さないミゼルに、サリエルはスカートの裾をつまむと、丁寧にお辞儀をした。
「先日、私が気を失っている間の事を聞きました。本当に有難うございました。
改めて礼を言えていなかったので。今日貴方にお会い出来て良かったです」
「前にも言った様に、全ては団長の為でしたので礼は不要です」
それを聞いて、クスリと笑うサリエルにミゼルは怪訝そうに眉を寄せる。
「何か?」
「いえ、本当にお兄様の事が大好きなのですね」
「その言い方…やめていただけませんか?」
「ミゼル様は本来一匹狼の性質にお見受けします。そんなミゼル様にここまで言ってもらえるお兄様はやはり凄い方なのでしょうね」
「…まぁ、尊敬はしています」
「お仕事をしているフランツお兄様を私は見た事がないので、お側で仕えているミゼル様達が羨ましいですわ」
嬉しそうに笑う少女を前に、ミゼルは眩しそうに目を細めた。
「…ーお逃げください。サリエル様。
俺は今日、貴方にこれを伝える為に此処に来ました」
「逃げる?」
「訳を詳しく話す事は出来ないのです。
ですが危険が、迫っています…」
(何を知っているのだろう…
私に今分かるのは、ミゼル様がお兄様に害のある事はしないと言う事)
「…わかりました。
今直ぐにとは参りませんが、2週間後の舞踏会の後直ぐに留学する予定です」
「それは…タイミングが良かったです。余計な助言となってしまいましたね」
(昨日決まったばかりですから…)
「ー…いえ」
「貴方が帰って来るまでに必ず、我々が片付けます。それまでどうか、お元気で」
「片付ける??」
この時、ミゼルはまだ何処か引っ掛かりを感じてはいた。けれどもその正体がわからないまま、鷹の姿に変形するとそのまま王都へ飛び立つ。
天高く舞い上がるさまを見送って、サリエルはその後ろ姿に呟いた。
「ー…この選択は、正しいのよね?」
「話は終わったかい?」
「フランツお兄様!」
急に後ろから声をかけられて振り返る。
フランツはすっと目を細めて、腰に手を添え身を寄せてきたかと思うと、サリエルをごく自然に横抱きして歩きだした。
「何を…っ」
「裸足のままで歩いたら、サリエルの足に傷がついてしまうじゃ無いか」
「そ…っっ、なら帰りはどうするつもりなのですか?」
「勿論こうやって抱っこして帰ろうと思ってるんだけど?」
(私を犬や猫だと思っているのかしら…)
「下ろしてくださいませ、お店までなら裸足でも私は構いませんから…っ」
腕に力を入れて下りようとするけれど、びくともしない。
「ふふっ。警戒してる子猫みたいだね」
私が恥ずかしがってるのをわかっててやっている…なのに何故か笑顔がすっきりして爽やかだわ。
(怒っている。この間からやはり怒っているのだわ)
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