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アーサーの手配した侍女に案内されたサリエルは会場の隠し扉を使って会場にひっそりと足を踏み入れた。
本当は別室に待機して人に呼んでもらった方が良いのだが、そうしている時間はない。
既に多くの人々が会場に入場しており談話している。この中から、時間内にラウルを探せなければ潔く諦めて戻って来いと言うアーサーの意図もあるのだろう。
パーティー会場にアーサーと入場したらラウルと話す時間は取れなくなるかもしれない。何せ王太子の同伴者であるし、私はこう見えて社交界が不慣れだ。
大半は王太子といる事になるはず。会話出来ても、挨拶しか出来ないかもしれない。
今ラウルと会うのが正解なのか、それは私にもわからない。誰にも、わかる事ではないだろう。
婚約は白紙になって、私は留学した後この場所へ戻る予定はない。アーサーの言っていることも理解は出来た。
私が居なくなったら、相手はヒロインになるのか、若しくはまた別の誰かなのかわからない。
だけどサリアロス公爵はラウルにすぐ新しく婚約者を探す筈だ。
話さないまま別れた方が、互いの為で、これは私のエゴなのかもしれない。
『俺は
サリーが好きだよ。
ずっと。出会った頃から』
『話を聞いてくれ サリー』
ただ、元婚約者であった事以外、何の繋がりも無くなると理解してからずっと、私の中で、熱く何かが込み上げて言うのだ。
ー私はこのまま、何も無かった事にするの?ー
「やぁレディ、お一人ですか?」
「拝見した事がないですね、社交界初参加の方ですか?」
「お相手がいないならー…」
時間が無いというのに何故か様々な方が話しかけてくる。
「申し訳ございません、連れを待たせておりますので…」
ぎこちなく交わしながらも、視線を泳がせた。
会場にある大時計の針が、王太子との約束の時間までの間を狭めていく。
(あと、5分)
私達は、このまま終わるのかもしれない。
もう少し時が過ぎればラウルの日常はストーリーに戻されてゆくだけ。
私の居ない場所で。
「お美しいレディ お名前は何と…」
知らない男性にまた絡まれて、思ったよりも会場内での足止めが多く、探す事が出来ない。
(…あと、3分)
諦めが過ぎり、元来た会場の隠し扉へと足を踏み出そうとしたその時ー…
「サリー?」
人垣の向こうから、驚いたように私の名前を呼ぶ人がいた。
声の方に振り向くと、真っ直ぐ自分に向けられている青い瞳と目が合い、その瞬間 時がとまったように会場内の騒めきが聞こえなくなった。
彼はこちらに、歩みを進めてくる。
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