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「昨日は婚約者と会ったんだろう?
どうだ、上手くやっていけそうか?」
朝食の一口サイズにカットされたフレンチトーストを口に運んでいると、まるで父親が心配しているような質問をフランツが問いかけてきた。
上手くやっていけそうも何も、上手くやっていけないのがわかっているからなぁ…
なんと答えようか…
「まだ、知り合ったばかりなのであまり良くわかりませんわ」
「そうか…」
紅茶を口へ運ぶフランツの姿を見て、サリエルは思いを馳せた。
兄にはまだ婚約者がいない。
ゲームでのフランツには婚約者の影が無かったように思う。
貴族には珍しいが無いこともない。教育熱心な家は早々に良縁は結んでいた方がいいという意見が多いが。
良い相手はおのずと引く手数多なのだ。
それでも、釣り合いの取れる家柄の知り合いに同じ歳頃の子がいなかったり、良縁など結ばずとも結婚する年頃でも、そういった縁が多くあるからとあえて放っておく親もいる。
しかし、兄には別の事情があるようだ。
前にお母様とお父様が話をしているところを聞いた事がある。
♢♢♢
あれは、そう、私が兄に本を読んで貰うために兄が勉強しているであろう、兄専用の書斎へむかっていたときだった。
兄がいると思っていた書斎からは、父と母の言い争う声が聞こえてきた。
母が父に言い争いを持ちかけるなど、それまではありえなかったが、この日を境に度々見かけるようになる。
「フランツに婚約者なら、お家柄より婿入りをさせられる娘を探せば良いでしょう!」
「では、このラドレス公爵家はどうするんだ?
女の公爵はいなくはないが、数は少ない。
我が家がそれをする必要がどこにある。
君も知っているだろう?
彼の髪と瞳は貴重なものだ。先の大戦で活躍した初代ラドレス公のそれを引き継いでいる。
そしてフランツを我が息子として引き取ったのだ。
これを、正当な継承者とせずしてどうするんだ?」
「ー・・それは、サリエルの私に似た栗色の癖髪と紅色の瞳が、正当な継承者として、相応しくないというの?
サリエルはあなたの実の子供じゃない!
可愛くないの?
貴方の親戚の子供の方が、可愛いっていうの?」
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