猫に小判

3/9
前へ
/9ページ
次へ
『私、画家になるの!』  なんて、幼い頃はよく言っていた。その頃の私はそれくらい『絵を描く事』に夢中だった。  日々のどこにでもある光景、はたまた幻想や空想……目に映るモノ、頭に浮かんだモノ……とにかく私はそれらを全て『絵』として表現していた。  それがたまらなく楽しく、私に充実した日々をくれた。でも……あの頃の自分に言いたい。 『本当に好きなら……止めないほうが……いい』  今の私は、あの頃の私には想像できないほど、退屈で上手くいかないことが多い……苦しい毎日を送っている。 「はぁ……」  ため息混じりに見上げた空には……少しの雲がかかり、見事な夕焼けを……絶妙に邪魔をしていた。 ◆  ◆  ◆  私――――。木村(きむら) 美咲(みさき)は悩んでいた。  昔は家族や友人。先輩に同級生……だけでなく、先生たちにあれほど褒められていた『絵』だったが、今は……息抜き程度でしか書いていない。  正直、「失敗した……」と自分でも思っている。  一時の流行の流れと、だいぶ遅れてきた『反抗期』も相まって周囲の反対を押し切り、今の進路に進んでしまった事をひどく後悔していた。 「はぁ……」  高校時代、私の『絵』に関して周囲の評価は高く、何度もコンクールに入賞し、美術展にも出品したこともあった。  周囲は当然の様に『有望な画家』を望んだ。  確かに昔の私であれば、周囲の期待を裏切ることなく『画家』になっていただろう。しかし、その当時の私は『周囲の期待通り』という事が気に食わず、『デザイン系の専門学校』を選び、進学した。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加