猫に小判

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 だが、どうやら『絵画』と『デザイン』は違うモノだったらしい。  そして「甘い考えだった……」と気がついた時には、卒業間際の就職を決める時期になっていた。 「…………」  私の周りの人たちは『アパレル関係』とか『デザイン事務所』などなど様々な形で『就職』を決めていた。  しかし、私は……一向に決められず、悩んでいた。  そんな思い悩み、頭を抱え込んでいる私に、さらに頭を抱えるような事が起こった。  なんと、学校の部活の後輩が大きなコンクールで入賞し、その作品が美術展に飾られる事が決まったのだ。  ただ、私だって何度も美術展に作品を出したこともあるし、コンクールに入賞したこともある。だから、普通であれば「おめでとう。時間があったら見に行くね」とでも言えばいい。  そう、特に気にすることはない……と言えればよかった。でも、この時の私は素直にそう言えなかった。  なぜなら、その後輩が入賞したコンクールは学生が『入賞』するのは、今回が『初』だったらしく、周囲の人たちはものすごく盛り上がった。  それはもう……ドン引きするほどに。  元々都会から離れた『街』という事もあり、この街は『初めて』という言葉にはとても敏感で、すぐに話題にしょうとする気質が強かった。  私も昔はその『盛り上がり』を目の当たりにしてきた人間だった。  そして『その気質』に反発して今に至っているのだが、コメントを求められた後輩はマイペースに「ありがとうございます」と淡々と答えている印象だった。  私は「あー、この子。興味のないことにはとことん無頓着だったわ」と当時を思い返しながら後輩の姿を見ていた。 「だからって……」  小さく呟きながら、私はカサッ……と音を立てて『一枚の紙』を見つめた――。
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