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「よく分からないなぁ。あいつは……」
私は考えに詰まったり、思い悩んだりしたら公園で何も考えず、一人鉛筆で『何か』を描く。
これは小さい頃から続けている一種の習慣だ。もちろん特に決まった『お題』なんてモノはない。とりあえず、『何でもいいから』描くのだ。
そんな習慣がある事を後輩は知っていたのか、絵を描いている私の前に突然現れ、この『チラシ』を差し出し「よかったら来てください」とだけ行って立ち去ってしまった……。
「なんだったんだ? あいつ……」
あまりに突然の出来事に、私は後輩の後ろ姿にそう呟くので精一杯だった。
しかし、しばらくすると「なぜ私にこのチラシを渡したのだろう?」とか「悩んでいる私に対する嫌がらせ?」などといった『疑問』と『皮肉』によく似た感情が流れ出ていた。
確かに、高校生や中学生の頃の私はかなり生意気で調子にのっていたと思う。そんな当時の私を知っている人から見れば、今の私の姿はさぞかし愉快だろう。
「…………」
なんて過去の自分と今の自分を重ね、私はフッ……と小さく笑い、チラシをゴミ箱に捨てたのだった……。
◆ ◆ ◆
「……先輩?」
思った以上に長居をしてしまったらしく、私はカバンを小脇に抱え、街灯の下を颯爽と通っていると、突然声をかけられた。
「瑞貴……。今帰り?」
「はい。ちょっと長く残りすぎて怒られました……」
「でしょうね。ゴリ先生はその辺厳しいし、運動部も切り上げている時間だし」
崎代 瑞貴。私が美術部に入っていた時の後輩で中学も高校も一緒だ。
幼馴染……とまではいかないが、付き合いは結構長い。高校男子にありがちな粗暴な口調では話さず、昔からずっと敬語を使い、物腰も柔らかい……言ってしまえば、女子に好かれそうな『ほんわかタイプ』の男子である。
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