猫に小判

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「はぁ……」  絵に対してのプライドは……ある。でも、それ以上に『プライド』いや、こんなに『自尊心』というこんな小さい自分を守り、自分が正しい……と正当化しようとする『プライド』を持っているとは思ってもいなかった。 「……ん?」  そんな自分に嫌気がさしていると……どこからか勢いよく流れる水の音が聞こえて来た……。 「なんだろう」  音を頼りに行ってみると――。 「あっ」  そこには一匹の黒猫と……誰かが閉め忘れたらしく、勢いよく水が流れている蛇口があった。 ◆  ◆  ◆  猫は水に濡れたくないのか、ジーっと水を見たまま動く様子がない。そして、猫の下には格子状の穴が開いている受け皿があり、その受け皿の穴から水が下に流れてしまうらしく、水が溜まるような事もない。 「……」  なんとなく水を止めた方がいいだろうと思って水を止めたが、何が気に入らなかったのか、黒猫は無言で私の横を通りすぎていった……。 「……」  本当に猫は気まぐれでいいな……と思う。 「人の評価とか気にすることがなくて……」  そう小さく呟いた時。トコトコと歩いていたはずの黒猫が、なぜか私の方をジーッと見ている事に気がついた。 『…………』  何か言いたそうにも見える表情だったが、あえて何も言わない……というか、そもそも猫は話せない。それに、この黒猫は私の方を見ているだけで、鳴いてすらいない。  ただ、この黒猫が私に『何かを言いたい、伝えたい』という事は、伝わっていた……。 「…………」  ――不思議な気分になった。  元々あの黒猫を見たことはあったが、決して人なつっこい印象はない。むしろ、ワザと人間と距離を取っていたように思う。 「……あの猫は、私に何を言いたかったのだろう」  気持ちの整理がつかないままスケッチブックに向かったせいか、筆はなかなか進まなかった。
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