猫に小判

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「…………」 『今、その人は絵から離れていますね。何かキッカケが……』 『昔、中庭で絵を描いていたんです。あの人みたいな絵を描きたいって……』  昨日の帰り道、瑞貴(みずき)が言っていた事を思い出した。この話を聞いたときはさして気にも止めていなかったが今、思い返してみると……。  ――あれは、私の事を言っていた?  そう思えてしまう。自意識過剰と思われてしまうかも知れないが、瑞貴(みずき)がいた頃に休み時間を返上して絵を描いている様な人間は……私以外、いなかったはずだ。  今にして思うと、瑞貴の性格はあまり自分から話すのが得意ではない。しかし、あの時は部活動の時に自分から私に声をかけてきた。  それらを踏まえると、チラシを渡してきた意味が変わってくる……。そう、つまり瑞貴は……私に『絵』の道に来て欲しい……という事に気がついた。 「あの猫が言いたかった事……なんとなく分かった気がするなぁ」  どんなに綺麗でも、他の人がいくら良いモノだと言われても……現にそうだったとしても、器が小さくては意味がない。 「……今からでも間に合うかな」  若干の疑問と不安は残るが、やってみるしかない。私は早速行動に移すことにしたのだった。 ◆  ◆  ◆ 「ほら! 走って! 急ぐよ!」 「待ってください。先輩」  春の桜が咲く頃――――。  私と瑞貴(みずき)は公園を走っていた。この公園を走り抜けた方が、駅にはとても近いのだ。  今日から私は、美術学校の生徒になる。つまり『美大生』になる……ということだ。ちなみに今回は瑞貴(みずき)と同じ学年になる。  つまり、同級生になるのだ。  そんな状況になるので「私たち同級生になるんだから、敬語じゃなくてもいいんじゃない?」と言ったが「いいえ、そこは譲れません」と頑なに拒否されてしまった。  どうやら瑞貴(みずき)は意外に頑固かも知れない。 「でも、驚きました。まさかコンクールに出品してしかも入選するとは」 「まぁ、私自身も驚いたけど、おかげ様で美大に行かせてもらえるんだから嬉しい話だよね」  そう私は、冬に出した作品でとあるコンクールで入選した。そして「コレは幸い」とその結果を片手に両親に直接交渉したのだ。
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