3399人が本棚に入れています
本棚に追加
うわっ、と思った瞬間、誰かが花音の腕をつかんだ。
それで持ちこたえた隙に、なんとか、爪先が床に着いて踏ん張り、こけずに済んだ。
「あ、ありがとうございますっ」
と空いてようやく見えるようになった床に膝をつき、見上げる。
本当に高校生か? と問いたくなる、巨人のようにいかつい少年たちに囲まれた花音は、彼らの隙間から自分の腕をつかんでくれている手を見た。
細くて長い指。
繊細そうだが、明らかに男の人の手だった。
「あのっ」
と言ったが、その手は花音が体勢を立て直したのを見極めたかのように、花音を離し、制服の波に消えていってしまう。
立ち上がって、お礼を言わなきゃ、と思ったのだが、その瞬間、扉が閉まって、電車が動き出した。
揺れた弾みに、しゃがんだままの花音はおじさんのお尻に頬を張り倒される。
最初のコメントを投稿しよう!