ハニートラップ

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「はい。  その節はどうもありがとうございました」 と頭を下げたあとで、 「どっかのおじさんのお尻に張り倒されましたけど」 と花音は笑った。  男はピアノの講師で、以前、満員電車で手を怪我して以来、あまり電車には乗らないのだと言っていた。 「私の知り合いもそうみたいです」 と言うと、男は笑う。  手を怪我した話のとき、昌磨がなにか言いかけてやめた。  あの話の不自然な途切れ方。  昌磨は、満員電車で手を怪我しかけた話をしようとしたのではないか。  その言葉を言うのをやめたのは、だから、自分は電車には乗らないんだ、という結論を話してしまいそうだったから。 「その満員電車に乗らない男って、もしかして、飛鷹昌磨?」 「え? はい」
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